
**現時点で公表されている情報をもとに執筆しております。民法改正、制度改正については、都度、最新の情報をご確認ください。
「成年後見制度が変わる」と聞いて
「成年後見制度が変わるらしい」
そんなお話を耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。
「終身制がなくなるの?」
「今、利用している人はどうなるの?」
「福祉や医療の現場では何が変わるの?」
期待と戸惑いの声が支援の現場からも聞こえてきます。
今回の民法改正では、制度の仕組みそのものだけでなく、私たち支援者の「関わり方」にも問いを投げかけられているように感じています。
なお、改正民法は国会で決まりましたが、開始時期は公布から2年6か月以内とされており、細かな運用はこれから示される部分も多いようです。
まずは正しく理解し、今できる備えを一緒に考えてみたいと思います。
変わること、変わらないこと
まずは大まかに制度の「基本」を押さえておきましょう。
成年後見制度は、認知症や知的障がい、精神障がいなどで判断能力が不十分な方の権利を守り、生活を支える制度です。
後見人にできるのは、財産管理や医療・介護サービスの契約などの身上保護。
介護や買い物などの事実行為はできませんし、遺言もご本人にしか作成できません。
これらを制度の基本としたうえで、示されている主な改正点は次のとおりです。
・意思決定支援の義務化(努力目標から「法的義務」へ)
・「終身制」の見直し
・後見・保佐・補助から「補助」への類型の一本化
・「特定補助」の新設(通常の補助より強い権限を持つ補助人)
・任意後見との併存や、任意後見監督人が必ずしも必要でなくなる点などの変更
・・・など。
ここで、誤解しやすい点を整理しておきます。
「終身制がなくなる」というのは、あくまで「利用する必要がなくなれば、制度利用を終わらせることを検討できるようになる」というのが、より正確でしょう。
ご本人によってはこれまでと同じく長く制度利用が続く場合もあります。
また制度利用の終了は「やめたい」という希望だけではなく、裁判所が「制度利用の必要性がなくなった」と認めることが前提です。
職権での終了も説明されていますが、運用の実際は今後を見守りたいところです。
その他には、
・改正前に始まった類型はそのまま継続されますが、終了を希望される場合はあらためてその旨申立をすることになります。
・制度を利用するにあたり申立には原則として「ご本人の同意」が必要です(意思を表示できない場合の例外が新設されました)。
・特定補助を付けるかどうかは裁判所が決めますが、申立の進め方や補助人との関係など、運用の詳細は今後も確認が必要です。
さらに、制度利用を終える場合、そのあとの暮らしをどう支えるかも大切な視点です。
補助人が必要な契約を整えてから任務を終える形や、利用終了後に改めて「身寄りのない方への包括的な支援」等につながる形などが考えられます。
そして、親族の反対があっても、それだけでご本人が制度を使えない理由にはなりません。
制度利用における判断の基本は、一貫して「ご本人にとっての必要性」です。
「代わりに決める」から「共に形にする」へ
改正の根っこにあるのは、「代行支援」から「本人の意思の尊重・意思決定支援」への大きな転換だと私は受け止めています。
本人に代わって「代わりに決める」のではなく、「本人の望みを共に形にする(ことを考える)」ということ。
ではここで、制度改正を待たずに私たち支援者は何から始められるか、考えてみましょう。
以下に、いくつかご提案します。
① 意思決定支援の流れを、日々の関わりに
ご本人に適切な情報を伝え選べる環境を整える。ご本人の表情やしぐさから思いを読み解く。表明された意思を生活に反映する。確認が難しいときはチームで話し合って推定する。この流れを意識するところからまずは始められるかと思います。
② 本人の選好・価値観を、「事実」と「評価」を分けて記録する
現場のモニタリング結果は、今後さらに裁判所の重要な判断材料になっていくと考えられます。その点においてもモニタリングや日々の支援記録はとても大切です。
③ 医療が必要な場面での意思決定支援をチームで考え、共有する
後見人に医療同意権はありませんが、法的にはそもそも家族でも同じと考えられています。医療機関が求める「同意」は、組織としてのリスクマネジメントの意味合いが強いように思います。また、身元引受人や保証人がいないことだけを理由に入院や治療は拒めない、というのが厚生労働省の解釈です(医師法19条1項)。医療が必要な場面における意思決定支援やご本人を取り巻く環境をどう考え支えていくか、ご本人に最適な判断をしていくか、多職種連携がより求められていくでしょう。
④ 公式資料を「共通言語」にする(*筆者のお勧めサイトです)
厚生労働省の情報サイト「成年後見はやわかり」や「意思決定支援ガイドライン比較表」の活用をお勧めしています。特に、「意思決定支援ガイドライン比較表」は場面に応じて参照すべき指針が一目でわかります。5つのガイドラインに共通するのは「本人の意思(自己決定)の尊重」です。職種を越えて同じ資料を見ながら話せることは、支援チームの大きな力になると思います。
⑤ 身寄りのない方への包括支援の情報を更新する
おそらく、これから官民ともに支援やサービスが増えていく分野です。新しい仕組みの情報を確認しながら、関係機関と連携できる体制を少しずつ整えておきたいところです。
制度改正を待たず、今から
後見人は「何でも屋さん」ではなく、契約・管理と意思決定支援の担い手です。
そして、新しい制度を動かすエンジンはご本人をとりまく支援者らの日々の記録と多職種連携。
つまり、私たち支援者の毎日の関わりそのものです。
制度改正を待たず、今から、ご本人の意思をひろい上げる関わりを始めましょう。
その一歩一歩が、ご本人らしい暮らしを支える力になる。
私たち支援者も一緒に学びながら丁寧に備えていければと考えます。
